姉の婚約者
24時間営業の中華料理屋でルディさんは炒飯を食べたかったことなんかすっかり忘れ、麻婆豆腐定食に舌鼓を打っていた。

「サンショーオオイホウガオイシイよね」

 なんて言いながら。私は別に欲しくもなかったのでドリンクバー500円を頼んでひたすらジュースをすすっている。ちなみに、このドリンクバーがドリンクバーとは名ばかりの代物で飲み物用の冷蔵庫に入っているジュース、お茶類飲み放題という雑セルフ方式である。グラス一個渡されて自分で淹れろと来たものだ。

 伊沢さんはなぜか甘いものばかりを注文して姉と食べていた。伊沢さんは、ニンニクを含む刺激物があまり食べられないらしい。この間、この店のバンバンジーに裏切られて以来中華は信用できないという。
私が二杯目のバヤリースオレンジを啜っていると、伊澤さんが話しかけてきた。

「ゆりさん、お腹空いていませんか?何か頼みますか?」

普通の人だよなぁ、たまに敬語おかしいしどもるけど。いまだ吸血鬼云々の話題を出す気にはなれない。もし、違ったら失礼だよなぁ。

「お気になさらずに。あと、別に敬語じゃなくてもいいですよ。私の義兄になるかも知れないそうですしね。」

 伊沢さんはいきなり照れているのか、目をそらして言った。

「義兄なんて、そんな…、まだお付き合いして日も浅いし……」

そっちが姉の妄言か!
結婚しないのかよ!
姉の方を見ると、こっちも露骨に目を逸らされた。


「一応、姉からは結婚すると伺っていたのですが?」

「えぇ……ええ〜」

困ってるよ、彼氏。実写版 寝耳に水みたいな顔してるもの。日本語でてないじゃない。


「スグル、ケッコンスルノー!メデタイね」

敏感にルディさんが反応してきた。

「ヨルはカエレるシゴトニシナイトネ」

ルディさんが優しく言う。うるせえなあ、こっちはそれどころじゃ……。ちょっと待てよ。

「吸血鬼」

私は、伊沢さんに聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で言ってみると、伊沢さんは、急に静かになってこちらを凝視した。やっぱりこの人、顔に出やすいんだ。
 でもまさかの心あたりあるパターンっぽいぞ。どうしよう、これも姉さんの妄言だと踏んでたんだけど……。これは引いてる顔じゃないよな。

「いや、姉から……、そんな感じのことを聞いたんで…ホントなのかなー、とか思ったんすよー……」

まずかったのは言い方かな?それとも、内容かな?言い方で合ってくれい。
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