春雷

「じゃあ、ただの知り合い、よりは
僕は、少し特別な存在だと思ってくれてますか?」



困ったような瞳で僕を見上げて、

小さくうなづいた。


「良かった。では僕たち、手を繋げる友達でいませんか?」

「‥‥‥。」

「手を、繋げるだけで、僕はいいんだ」



僕は、包帯を巻いた方の手を、彼女に
差し出した。


「イエスなら、柴田さん、貴女が握ってほしい。僕は握れない」


彼女は
僕の手を、じっと見つめていた。

「高、村さん‥」

「言葉は今はなくていい。イエスか、ノーで
答えてください」

随分僕も残酷な事をいうもんだ。
彼女の余計な事を言いだしそうな流れを遮った。


彼女は
僕の本心を探っている。
「本気か?」と。

僕はただ黙って彼女を見つめていた。


おずおずと、彼女の痛々しい腕が、動きだし、

僕の手を、そっと、優しく握り、

自分の頰にまで、持っていった。

「し、ばたさん‥」


優しく、僕の手を包み込んで、
目を閉じて、頬ずりをした。


彼女と繋がっている手から
暖かい物が流れてくるようだった。

「ありがとう。僕、今、すごく感動しています」


胸がこの上ない幸福感で満ちていく。

完全に恋に落ちた。
落ちると言うしかない。
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