Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「あれ?千紗子の弁当は、もう作ったのか?」

 弁当箱が一つしかないことに目聡く気付いた雨宮の指摘に、千紗子は内心ドキッとしながらも、平然を装った。

 「今日は出勤前に少し寄るところがあるので、そちらで食べるんです。」

 「そうか…。じゃあわざわざ俺だけの為に弁当を準備してくれたんだな。手間を掛けさせてしまって済まない。昨日言ってくれれば良かったのに。」

 申し訳なさそうに眉を下げる雨宮に、千紗子の良心が少し痛む。

 「いえ…、それにそんなに手間は掛かってませんよ?簡単なものと余りものばかりですから。」

 「そうか?それにしてはすごく美味そうだ。これで今日も一日乗り切れそうだよ。ありがとう、千紗子。」

 雨宮はそう言って、千紗子の頬にチュッと口づけをした。
 一瞬にして千紗子の顔が赤くなる。

 「お、お礼は普通にお願いしますっ!!」

 抗議の声を上げる千紗子を見た雨宮は、「ごめん」と口にしながらも、すぐに「あははっ」と笑った。

 柔らかな感触の残る頬を押さえながら真っ赤になる千紗子を見ながら、幸せそうにひとしきり笑った彼は、「シャワーしてくる」と言い残してリビングを出て行った。

 (毎回私が過剰に反応するのを分かってやってるんだわっ!!なんて心臓に悪い…)

 千紗子はせわしなく鳴る心臓の音を、雨宮の予測不能な接触のせいにして腹を立てることで、その本当の意味から目を逸らしたのだった。





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