Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 遅番で出勤した千紗子は、事務所のホワイトボードを見て雨宮の出張を思い出したのだ。
 
 課長である彼の今回の出張は、数か月前から決まっていたことだった。
 千紗子達が勤める図書館の母体となる市が、姉妹都市協定を結んでいる市の図書館との交流会なるものに、雨宮は代表として出席するために二泊三日の出張に出ているのだ。

 すっかりそのことを忘れていた千紗子は、しばらく雨宮と顔を合わせなくて済むことにホッと肩を撫で下ろした。

 (木曜日は休館日、金曜日は雨宮さんが公休日、か。)
 
 勤務表を見ながら、平日の間は雨宮とは会わないことを確認する。
 ほとぼりを冷ますのにちょうど良い期間ではあるけれど、毎日仕事中もプライベートでも一緒にいた彼の顔を当分見ることがないのだと思うと、千紗子の心に少しだけ冷たい風が吹き抜けるような気がした。

 けれど張りつめていた緊張感から解き放たれた千紗子は、自分の心の微妙な変化に気付かなかった。

 
 業務の間、千紗子は出来るだけ自分の業務に集中することで、余計なことを考えないようにしていた。

 夕方、返却された蔵書を書架に戻す作業をしている時に、どこからか自分を見ているような視線を感じて顔を上げてキョロキョロと見回したけれど、周りに変わった人もおらず、気のせいかと作業に戻った。

 (神経過敏になってるのかしら…。)

 この数日間で色々なことが次々と起こっている為、頭がパンク気味なのは事実だ。きっとそのせいで感覚がおかしくなっているのかもしれない、と千紗子は考えたのだった。

 
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