Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 「うん。俺も嫌なものは嫌だからな。お互い、嫌なことは嫌だって、ちゃんと伝えあおう。何度だってちぃに言うよ、俺が好きなのは千紗子だけだって。」

 「一彰さん……」

 彼の胸から顔を上げると、甘やかな瞳に見下ろされていて、自然と鼓動が早くなっていく。頬が紅潮して、瞳が潤みだす。

 「私も、本当は一彰さんと毎日一緒にいたい。毎日一彰さんにご飯を作って、一緒に食べたい。一緒に眠って、起きたらおはようって一番に言いたいです。……こんなに好きになって、自分でもどうしていいか分からないくらいなんです……あなたの引力に逆らえそうにない…私、あなたの側にずっといてもいいですか?」

 「千紗子……」

 「まだまだ下手ですけど、でも、ちゃんと言葉にして気持ちを伝えるように努力します。だから一彰さん、『離れて行ったら』って不安にならないくらい、抱きしめてください。私もあなたのことを抱きしめたい。」

 潤んだ瞳が一彰を見上げる。

 「そんな顔してそんな可愛いこというなんて、ずるいよ、ちぃ。」

 一彰は千紗子の体を少しだけ離すと、その小さな唇にそっと自分の唇を重ねる。
 形を確認するみたいに、上唇と下唇をなぞるように合わせて、ちゅっと啄ばむ。
 そして唇から離れると、千紗子の頬にある涙の跡を唇でそっとたどって行く。両方の目じりに溜まった涙を唇で吸い取ると、一彰は千紗子の瞳を見つめた。

 「毎朝毎晩ずっとそばにいて、千紗子。千紗子の涙はいつだって俺が拭う。千紗子の笑顔は俺が守る。だから千紗子は遠慮なんて一つもしないで、ありのままで俺の隣にいて欲しい。」

 真摯な言葉が千紗子の胸を打つ。

 「愛してる、千紗子。」

 「私も、一彰さんを愛してます。」

 大きな笑顔でそう言うと、千紗子の目から新しい涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
 一彰はそれを大事そうに唇で拭うと、優しく微笑んむ彼と見つめ合う。
 二人はどちらからともなく唇を合わせると、お互いの温もりを確しかめるように、しっかりと抱きしめあった。



  (了)
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