略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
相も変わらずしつこい匠海さん
* * * * *


「考えてくれた?」

「何をですか?」

「俺と付き合うこと」

「今は業務中です、匠海さん」


 すりガラスのパーティションで仕切られた成京銀行行内の片隅。

 業務部信託課への来訪者に、乙成美郷(おとなりみさと)は上等な茶葉で淹れた鮮やかな緑色のお茶を出す。

 低いカウンターの向こうに座る男性からは、いつもの穏やかなトーンでさらっとナンパな言葉が返ってきた。

 嫌味のない通った鼻筋。そこに乗るシルバーのスクエアフレームの眼鏡は、穏やかな目元をインテリチックに飾る。

 柔らかそうな緩いクセっ毛の黒髪と、秋の気候に相応しい藍のスリーピーススーツ。

 いかにもの魅力的要素が彼に男の色気を乗じていて、窓口係の女子社員が通りすがらチラチラと彼を盗み見に来ている。


「匠海って呼んでくれるの、めちゃめちゃ嬉しい」

 
 光沢のあるグレーのネクタイの前で長い指を組み、そこに顎を乗せて微笑む爽やかな青年に、美郷はうんざりと肩を落とした。
< 1 / 241 >

この作品をシェア

pagetop