冷たいキスなら許さない

社長の宿題

夕方になり、出発直前の社長から連絡が入った。定刻通りに日本を発ちカナダへ向かうと言う。

「親父たちのことはとりあえず放置でいいから。俺から連絡してある。
”プロポーズもしてないのに先走るな。これで灯里に引かれてフラれたら親父たちのせいだからな”って言ったらブツブツ文句言いだしたから、”会社の株価や業績に影響するようなことするな、俺は社員とその家族の人生を預かっているんだ”と言ったらすぐに黙ったよ」

・・・だったらはじめから言って欲しかったよ。

「社長、早く帰って来てくださいね」
それしか言えなかった。

電話の向こうでふっと笑った気配がして「時差を考えて電話しろよ」とだけ言って電話が切られてしまった。

もうつながっていない電話に向かって「うん。わかってる」と返事をしている自分が可笑しい。
社長はもう昨日の夜のように私からの電話に出てくれないなんてことはないんだろう。

それだけでホッとする自分。
この4年ですっかり社長に飼いならされてしまっているらしい。
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