千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

泉に潜む者

数時間後目覚めた良夜は、膝枕をしたままこっくりこっくりしている美月を見上げて、まつ毛が長く真っ赤でふっくらした唇の美しい美貌を穴が空くほど見つめていた。

…どうにも美月に既視感を覚えて仕方がない。

こうして膝枕をされたのははじめてなのに――以前ここでされたことがある気がして、そんなはずはないと否定してそっと身体を起こした。


「明…」


「母様、少し寝させてやってくれ。俺が運ぶから」


実の母が心配そうに声をかけてきたが、良夜はそっと美月を抱き起してひとつ息をついた。

さっきは触れた時に頭の中に何か見たことのない光景が走馬灯のように流れた。

またそんなことが起きるのではと警戒したがそれは起きず、すやすや眠っている美月の寝顔を堪能しつつ自室に運び入れて床に横たえさせた。


「そういえば…女を部屋に入れたのははじめてだな」


鼻をつまみ、頬を軽く引っ張ってみたが起きないため、これ幸いにと一緒に床に潜り込んで抱き寄せると、無意識なのか胸に頬を寄せてきて、どきっとした。


「寝顔を見ているとまた眠たくなるな…」


そう呟いたのも束の間――またもや良夜はそのまま一緒に寝てしまい、明け方になるとようやく目覚めた美月は、おかしな状況になっていることに目を擦りながらぼうっとしつつ、良夜の乱れた胸元を見て一気に覚醒。


「きゃ…っ」


「ん…なんだ…起きたのか…」


「ま、まさか!私に何かしたのでは…!」


「何もしていない。お前こそ寝ている俺に何かしたんじゃないだろうな?」


にやりと笑いかけられてむっとした美月は、良夜が頭を預けていた枕をさっと奪い取って身体に投げつけた。


「意外と乱暴者だな」


「私が!何かするはずないでしょう!?」


「別にしても良かったんだが、起きている時にしてくれると嬉しい。さて、神社に送る。ついでに朝餉を一緒に食ってから帰る」


「また勝手に決めて…」


良夜は言うことを聞かない。

それを分かって聞いている自分にも気付いていたが、自身の感情をなるべく無視して良夜の部屋を出た。
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