転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
断章*母は問う
断章 母は問う


「こっちにおいで」

母はそう言って俺の頭を抱き寄せる。幼子の手でも折れそうなか細い腕。骨の透けた薄い胸。床に伏せってからも一向に良くなる気配はない。

病魔は母の細い身体を少しずつではありながら着実に蝕んでいく。もう喰らうところは残っていないだろうに。残り粕までも貪られるように、母はまだ細っていく。

母と自分が寝ればいっぱいだった小さなベッドが、まるでクイーンベッドのように大きく見えた。寝相の悪い母に蹴り落とされることはきっともう無いのだろう。

「そんな顔してどうしたのよ、また意地の悪い貴族連中に何か言われたの?」

母は笑って俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。母も好きだが、母の笑った顔はもっと好きだった。

顔をいっぱいに使って笑う母を見ているだけで心があたたかくなる。優しい気持ちになれる。

それが例え、今のように青白い顔でも。

「ごめんね」

母は謝ることが増えた。俺は首を振る。謝る事など何も無い。謝るより、もっと言って欲しい言葉がたくさんあるのに。

「私は、あんたとずっと居られないみたい」

母は声を震わせる。その度に辛くなる。どうして、どうして……どうしてこの人を連れていくのか。

俺には母しか、いないのに。

そう思っても……俺には何もできない。所詮王子など名ばかりの立場で、弱る母一人すらも助けられはしない。

「あんたは……大切な人を見つけられるのかしら?」

泣きそうな顔で母は問う。


そして俺は────今日も目を覚ます。
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