転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
*伝えて
chapter7 伝えて


「マイカ、久しぶりだね」

「は、はい……でも……どうしてここに?」

こちらに歩み寄ってきながらバレンさんは私に笑いかけただけで答えずに、グイード殿下の方を向いた。そして往来であることも憚らずに深々と腰を折った。

「グイード殿下。恐れ多くもお願い申し上げます。今少しばかりのお時間を、私にいただけないでしょうか」

「ここでもいいが?」

「いえ……マイカとの時間をいただきたいのです」

「……」

グイード殿下が口を閉ざしてじっとバレンさんを見つめた。顔を上げたバレンさんもたじろぐことなくその視線を受け止めている。

息が詰まるような数秒の後、グイード殿下は一度だけ頷いた。彼がどんな顔をしているのかここからは見えない。

それを見届けてバレンさんが大きく肩で息をつく。受け入れられるかわからなかったからだろう、驚いたような、安心したような表情だ。

「……ありがとうございます……マイカ、行こう」

腕を掴まれてぱっと顔を上げる。

「え、あ……殿下」

懐かしい人に会えて嬉しいという気持ちもある。でも、私は行ってもいいのだろうか?

不安げな表情をした私を見て、グイード殿下が私のスモーキーグレーの髪をするりと撫でた。彼は不思議なくらいに凪いだ目をしていた。

「先に城に帰っている。適当に迎えの者を寄越すから心配するな」

「他の男について行くなんてお前は浮気でもするつもりか?」なんて怒られると思った。殿下がバレンさんのお願いに頷いた時点で私は驚いたのだ。

……そうか、私は怒って欲しかったんだ。行くな、って。

引き止められないから戸惑っているなんて、どれだけ私は自惚れていて図々しいんだろう。

恥ずかしくて、曖昧に頷いただけでグイード殿下から顔を背けてしまった。そんな自分の行動を取り繕う間もなく、私たちは背を向け合った。
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