しあわせ食堂の異世界ご飯2
5 心と体に優しいみぞれ雑炊
 ローズマリーが帰ったあと、しあわせ食堂の営業が終わってすぐにアリアはシャルルを呼んだ。
 早急に、相談しなければならないことがあるのだ。
「アリア、どうかしたんですか?」
「とりあえず、私の部屋へ行きましょう」
「……? はい」
 まだ店内にはカミルが仕入れ作業で残っているため、このままだと話を聞かれてしまうかもしれない。
 真剣な様子のアリアに、シャルルも無言で頷いた。

「えっ!? リベルト陛下が体調不良!?」
「しーっ! シャルル、部屋の外へ聞こえてしまったらどうするの!」
「あっ、申し訳ありません……!」
 アリアは声を荒らげたシャルルを慌てて制し、口元に指をあてる。
「私だって、どういう状況なのかはわからないの」
 ただ、ローズマリーからそのように聞いただけなのだ。そっとアリアの耳元へ唇を寄せて、『リベルト陛下のお加減が、著しくないそうよ……?』と。
 こんなことを言われては、心配するに決まっている。
「でも、風邪でしょうか? 怪我っていう可能性もあります」
「そうなのよね……」
 王城で安静にしているかどうかも、ローズマリーの情報からは読み取れない。ただ、何かあったのだということしかわからないのだ。
 アリアはシャルルを見て、「つきあってちょうだいね」と告げる。
「え?」
「だって、リベルト陛下に直接会って確かめるしかないじゃない……! 許可が下りるかはわからないけれど、謁見の申し込みをするのよ!」
「なるほど!!」
 それならさっそく準備をしましょうと、シャルルは侍女服へ着替えるため一度部屋へ戻る。
 アリアもエプロン姿のままだったので、王城へ行っても問題ない私服へ袖を通した。

 今日はいろいろなことがありすぎて、頭が爆発してしまいそうだ。
 アリアは窓を開けて、王城の方を見る。明かりがともっているけれど、そこにリベルトがいるかどうかはわからない。
(休んでくれているならいいんだけど……)
 忙しいと言っていたし、キノコ大会であったきりだ。
 リベルトのことを考え始めると、だんだんと寂しさが込みあげてくる。
「会いたいなぁ。会えるかなぁ」
 彼は自分に会いたいと、そう思ってくれることはあるのだろうか。
 窓から暗くなり始めた空を見ながら、同じ空の下にはいるのだろうと……詩人のようなことを思い描く。アリアはすぐに自分らしくないと笑って、窓を閉めた。
 そろそろシャルルの支度も終わるだろう。

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