水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
『睡蓮』と幸せのピエロ
 髪を乾かし終えた波音が脱衣所を出てくると、碧は背中を向けて、玄関の靴箱をがさごそと探っていた。目当ての靴が見つからないようだ。

「碧さん、あの、お風呂ありがとうございました。それと、タオルと着替えも」
「……ああ。お前、足の大きさどれくらいだ?」
「たぶん、標準くらいです」
「それだと分からないな。ちょっとこっち来い」

 波音が背後から話し掛けると、碧は振り返って波音を手招きした。一瞬だけ、波音の格好を確認するかのように動きが止まったが、あとはいつも通りだ。

 波音はほとんど警戒することなく、言われたまま碧の傍に寄った。碧の手には、黒と白、二組のサンダルが握られている。

「これ、履いてみろ。どっちも大きいと思うけど。他のよりは小さいから」
「はい」

 波音はそれらを受け取って、三和土《たたき》の上に置いた。実際に足に合わせながら比べてみると、確かに波音の足より一回り以上大きいが、履けないことはなさそうだ。

(そっか。買い物に行くにも、裸足じゃ不便だし……)

 シャツも含めると幾分か不格好だが、文句を言える立場ではない。むしろ、感謝している。

 水着姿で知らない世界に放り出され、着るものも食べるものも、寝る場所まで提供してもらっているのだ。もう何度目かになるありがたみを感じながら、波音は白いサンダルを選んだ。
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