水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
不器用な嫉妬
*****



 遅くなりすぎないうちに、波音は碧の家に帰ることにした。渚は波音を碧の家までわざわざ送ってくれた。碧に顔を合わせるのが、真の目的だったかもしれないが。

「ただいまー。碧さん、開けてください。あのー……碧さーん?」

 何度扉を叩いても、碧が出てくる気配はない。出掛けてしまったのか、それとも風呂に入っていて、今は出てこられない状況なのか。

 不思議に思いつつ波音が扉の取っ手を引くと、それは簡単に開いた。

「あら、鍵が開いてるの? 不用心ね」
「開けておいてくれたのかもしれません」

 中は照明が点いたままだ。波音と渚が顔を覗かせると、碧は一階のハンモックの上で揺られながら目を閉じていた。眠っているようだ。

「寝てますね……」
「疲れが溜まってるんでしょ。そっとしておいてあげなさい」
「はい。渚さん、今日はごちそうさまでした。それに、たくさんのお話も、ありがとうございました」
「いえいえ。また行きましょうね」

 渚とは、とても気さくに話せる。性別の垣根は、渚に対しては全く気にならない。波音が頭を下げると、渚は笑って帰っていった。

(いい人だなぁ……送ってくれるところは紳士だけど、心は乙女)

 彼の恋を応援したい、と波音は心からそう思っている。そろそろ碧に告白するようだが、碧の気持ちがどうであれ、渚にとっての納得いく答えが返ってくることを願うばかりだ。
< 68 / 131 >

この作品をシェア

pagetop