クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
プロローグ



東京タワーからは、どこまでも見える。

新宿のビル群、お台場の観覧車、茫々と広がる東京の街、天気が良ければ富士山だって見える。
そこそこかかる入場料を払い、私は東京タワーの大展望台へ来る。東京の郊外生まれの私にとって、東京の象徴は東京タワーだった。スカイツリーじゃない、東京タワーなのだ。

私は事あるごとにここにくる。大抵はひとりぼっちで。朝一番の時もあれば、閉館ギリギリの時もある。
何をするでもなく、ぐるりと歩いてあちこちから東京を眺めるのだ。

誰でもそうだと思うけれど、生きているとふとしたことで違和感を覚えることがある。
指先がチリチリするような、わずかな感覚は日常の隙間に潜んでいるから、ちょっとしたことで私にぶつかる。そして、それが耐えきれなくなると私はここにくる。いつのまにかそうなってしまった。

30年生きているとそんなことの回数も増えたように思う。
前回来た時は、恋人の浮気だった。許してと言われたから許した。別れたくないと言われたから別れなかった。ただ、ひとりでここに来た。涙は出なかった。
1年半ぶり、今日定時後にやってきた理由は、その恋人と別れたからだ。浮気され、今度は向こうが『許してくれなくていい』と言った。だから、律儀に私は許さずに別れた。涙はやっぱり出なかった。

夏の19時は、日没後だけれどまだ薄明るく、そこに街の夜景がぼんやりと浮かんでいて夢の世界みたいだ。
ほんのりピンクとオレンジの残る可愛いおもちゃ箱。
ああ、景色も私もふわふわしてる。
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