クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
9.東京タワー



「阿木さん、ランチはどこに手配したの?」

野口課長に尋ねられ、私はパソコンの液晶から顔をあげた。

「MMビルのイタリアンに予約しました。二階なんですけど、テラス席が広いので」
「テラス席じゃ寒くないかねぇ」
「総務部長は『天気もいいし気持ちよさそうだね』って喜んでましたよ」
「うん、ならいいや」

野口課長と話しているのは、今日のランチタイムに急遽行われることになった千石孝太郎の送別会の場所についてだ。
千石くんが退職するという報は週明け月曜には全社のニュースとなった。しかも、水曜が最終勤務日だという。

理由は誰も詳しくは聞いていない。噂になっているのが、スペインに戻るというものだ。
友人に任せた会社にもどりたくなったのではないか、向こうに将来を約束した相手でもいるのではないか。そんな憶測も飛びかったが、誰も真偽を確認できず、そしてそんな暇もなく彼は去っていくのだろう。

集合率が高いという理由で火曜のランチタイムに送別会を企画したのもそういう理由だ。
総務全員とはいかないが、各部署から何人かずつと総務部長、課長陣が集まれば、一応会として成立する。
仕切りは同僚である総務二課。そして私の上司として最後の仕事だ。
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