覚悟はいいですか

家に入ると、礼は私をソファに掛けさせ、すぐにお風呂の準備をしにいった。所在なく部屋を見回してますますここにいていいのかと思う

30畳はあるリビングは床が大理石でしかもほんのり暖かい。白く曲線を描くソファーセットは6人掛けと4人掛けの二つあり、天井は高くシーリングファンがゆっくり回っている。一面だけ壁がなく、ガラス張りになっていて薄暮に沈む街を見渡すその手前に、グランドピアノがさりげなく置いてあって……これ、完全にモデルルームだよね?

一度別室に消えた礼はすぐに戻ると、その手に女性もののパジャマと未開封の下着を持ち、私に差し出す

「え?」

これ、誰の?
彼女とか、婚約者とか、もしいるならやっぱり帰った方がいいよね?
どうしよう……

混乱して着替えをじっと見たまま受け取らない私を、礼は不思議そうに見て、次の瞬間ハッとして慌てて話す

「ち、違うよ、これは姉さんの!母親と姉の信(まこと)以外、ここに来た女は紫織が初めてだから」

お姉さん?

「姉さんは今海外に住んでるけど、たまに買い物ツアーだとか言ってここに来るんだ。昔から贔屓にしてる店が近いし、老舗のデパートもあるから。
いつ来るかわからないから、定期的に家のものが掃除しに来て、着替えとかも補充してるんだよ」

「そうなんだ」

「ん、これも新しいのだからしおは気にしないで。それとも俺の服がいい?俺は構わないけど?」

「こ、こちらお借りします!」

礼の服を借りるのはそれこそいろいろ問題がありそうなので、急いで着替えを受け取る。そのまま浴室へ連れていかれ使い方を聞いて、礼が脱衣所の扉を閉めてーーーほっと息をついた

いや、この脱衣所も普通に住めそうな広さだし、浴室は最新設備にテレビもついてるし?
セレブ感は他と変わらないけど、なんかもう慣れてきたというか……

疲れがどっと出た気がしたけど、礼だって汗を流したいだろうし。早く入って早く出よう

そう決めて、チャイナドレスのファスナーに手をかけたーーー

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