覚悟はいいですか

そうっと振り向いて、誰もいないことに安堵する

呼吸を整えて返事をすると、ボリュームを圧し殺した声がした

「礼様、よろしいですか?」

「っ!あ、ああ」

志水か
あいつ、もう来たのか……

志水に緩んだ顔など見せられない
まして紫織の寝顔は絶っっっ対見せたくない!!

「急いでおいでください。全員リビングに集まっておりますので。それから」

一旦言葉を切ってから、真面目くさった声が続く

「大事な方の寝込みを襲ったらダメですよ」

「よ、余計なお世話だ!」

襲ったんじゃない、ちょっとキスしただけだ
というか、扉の向こうにいて何故わかる!?

「なるべく早くお願いします」

最後まで冷静さを崩さない奴だな…
だが、これ以上ここにいるのもまずい


紫織の様子を今一度、確かめる
穏やかな寝顔だ、よかった

想いを込めて額にキスをする
悪い夢を見ないように、子どもの頃、母がしてくれたおまじないだ

「愛してる」

耳元に告げてから、どうか彼女にいい夢をともう一度願い、寝室を出たーーー
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