覚悟はいいですか

2、紅くして黒き晩夏の日が沈む


営業部向けのOJTも終わり、お盆休みをはさんで迎えた月曜日
社員食堂で久美子と少し遅いお昼を食べていると、綾乃さんからメールが届いた

『久しぶりにご飯行かない?水曜19時、いつものライオン像前、OK?』

相変わらずのちょっと強引な誘い方にクスっと笑みが洩れる
週末はペンションの営業があるから平日に誘われるのもいつものことだ

私も決して暇ではないが、来週には月締めと上期の決算で残業続きになるのはわかっている。ここはひとつ、綾乃さんに会って元気をもらおうと、『了解です』と返信した

すぐにスマホが震える

『うちの旦那と礼も一緒にいい?』

返ってきた内容にドキッとする
どうしよう……BBQの日のことを思い出し、会社内だというのに顔が火照るのを止められない

あれから一週間以上経つが、私はまだ一度も礼に連絡していなかった
だって何を言ったらいいかわからないし、しかもあんなゴニョゴニョなことされた後だし……
でも一度”了解”って送っちゃったから、いまさらやっぱり行きませんじゃ、
何で行けないか突っ込まれそうだし、
う~ん……

ま、まあ、食事するだけだし、綾乃さんがいれば変なこともされないだろうし、
って、何で意識してんの!私!!

……大丈夫、大丈夫、二人っきりで会うんじゃないんだから、変なことも起こらない、はず!
今までもグループなら誰も何もなかったし…

『いいですよ。綾乃さん達も一緒なら。楽しみにしてます』と入力した

送信ボタンを押してふうっと息を吐く
何か変に汗かいちゃったな……

目の前の冷製パスタに再び取り掛かろうとフォークを持ち直したところで

「紫織さ~ん?なんで顔赤いんですか~?」

と絡みつくような声が聞こえ、目の前に人がいたことを思い出して固まった

うんうん、想像できるよ、今の久美子の表情とか、この後の展開とか?
絶っ対突っ込まれるよね、根掘り葉掘り他人様に言えないようなことまで聞かれるよね!ね!!それでもこう言うしかない!

「そ、そう?そう言えばちょっと熱いかな」

「いやあ、エアコン効いて寒いくらいですよ」

「じゃあ、パスタが熱かった・・」「冷製パスタですよね」

食い気味にきたよ~!!

「誰からどんなメールが来たんですか?」

「それは個人情報…」「紫織さ~ん?」

ちょっと~悪い顔してるよ久美子さん!?
は、メール!そうだ、メールのことだけなら!

「前に話したことあるでしょ、大学の先輩の綾乃さんからよ。今度の水曜日に一緒に食事行く約束しただけ。
だから水曜は何かあったらよろしくね。」

頼む!ここで引いて~!これ以上は聞かないで~!!

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