覚悟はいいですか

4、ジゼル

今日は定時で上がった
ふうと息をついて社屋のエントランスを出たところで
何だか人だかりができている

「モデルかな?」「何かの撮影じゃない?」
なんて囁く声が聞こえる

横目に見ながら通り過ぎ、駅へ向かうと
「紫織!」
と呼ばれ、足が止まる
まさかと思っていると、すぐ後ろに走ってきた足音が止まり、荒く息をついているのを感じた

振り返れば、思った通りーー
礼がいつもの美麗な微笑みを浮かべて立っていた

「紫織、お疲れ様」
「・・・礼、どうして?」

綾乃さん達と一緒に食事をして以来ーー
つまりあのキスの夜以来ーー
メールや電話では連絡をとってはいたが、会うのは久しぶり
どんな顔をしたらいいかわからなくて、ちょっと冷たくしてしまった

「何で?北海道じゃなかったっけ?」

確か昨日、今週いっぱいは札幌で、そのあと韓国とか言っていたと思ったけど…

「取引先にキャンセルされてね。明日の午後まで空いたから、紫織に会いに来た」

そう言って時計を見る

「それは空いてるって言わないんじゃ・・・」

あっけにとられながら無意識にこぼれた言葉は聞こえていないようで

「時間無いから急いで乗って。」

といきなり手を掴まれて、驚いているうちに礼の愛車ーーミッドナイトカラーのアストンマーティン ヴァンキッシューーの助手席に乗せられてしまった

約束などしていない、突然のことにドキドキと胸が高なる

「ねえ、どこ行くの?」

と聞くと、運転席からいきなり身を乗り出して覆いかぶさるので、体を思いっきり引いた
が、シートに押し付けられるばかりで、たいして距離は空かない

目をぎゅっと閉じて、ドキドキしてい固まっていると、カチッと音がして礼の体が離れる

…なんだ、シートベルトか

あからさまにフウと息を吐くと、こちらを見て笑ってた
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