『ポーン』

軽やかな機械音にシートベルト着用のサインが消えた

機内全体にほっとしたような空気がながれる
あちこちでベルトを外すカチャカチャという音がして、しばし微かなざわめきに包まれた

北へ向かう飛行機の中で、さっきまで紫織といた街を見下ろしながら可愛かった彼女の姿を思い出すと、つい笑みがこぼれてしまう
と、隣から冷たい視線が投げられた

「・・・なんだ」

「いえ、お幸せそうで何よりです」

「馬鹿だと言いたいのか・・・」

「馬鹿じゃないんですか?」

「・・・・・」

「そう思われたくないなら、あまり無茶苦茶なさらないでくださいね。
振り回されるこっちの身にもなっていただきたい」

「・・・別に振り回していないだろう」

「本当にそう思うんですか?」

「・・・すまなかった。以後、気を付ける」

「くれぐれもそのお言葉、お忘れにならないでください。
ではこちらの資料に目を通しておいてください。明日の午後のアポイント前にテレビ会議が入ってます。
それから社長の奥様からこちらを渡すようにと・・・」

「!いらないと言ってるだろう。断っておいてくれ」

志水が仕事の資料に重ねて渡そうとしたのは、見合い相手の釣書きだった

「私が断れるわけないじゃないですか。ご自分で交渉なさってください」

日本に帰ってから母親からのお見合い攻撃にうんざりしていた
父親はいい人がいるなら連れてこいと言うが、まだ紫織に返事をもらっていない以上、紹介もできない