大好きな先輩は隠れ御曹司でした
1.
大手一流商社勤務と聞けば、大抵の人は綺麗なオフィスと手厚い福利厚生と同時に英語が飛び交う活気溢れるグローバルな職場をイメージするだろう。

確かに、冴島光希(さえじま みつき)の働く本社オフィスはとても綺麗だし、廊下では外国人社員とすれ違う事も珍しくない。
でも、光希が所属する場所に一歩足を踏み入れると、その空気はガラリと変わる。

財務部施設資産管理課。

十数名のメンバー中、女性は三人。一人は時短の派遣さんだから、正社員としては五年目の光希と更に五年先輩でママさん社員でもある吉村静香さんと二人だけ。男性陣もミドル世代以降が大半で、社内でもかなり落ち着いた部署なのは仕事内容に比例しているのだろう。

「冴島さん、ちょっと頼まれてくれるかな」

「はい、何でしょう」

部署内でも一番奥、みんなのデスクを見渡せる席に座った若松課長から声が掛かり、光希は席を立った。

「悪いんだけどね、この書類を海外営業部の岡澤主任の所に届けて欲しいんだ。ついでの時で良いとは言ってくれたんだけど、岡澤君も部長に急に頼まれたみたいだし。それに彼らはいつでも日本にいるわけじゃないからね」

「それはそうですが……」
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