冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「おい、大丈夫か?」

 自分に掛けられた声だとわかり、フィラーナはゆっくりと首を巡らせる。視界に映し出されたのは、琥珀色の髪をした自分と同じ年頃の若者だった。他にも、集まって来た多くの人々の視線が自分に注がれている。

「もしかして、あの馬車から落とされたのかい?」
「ちょっと待っとけ、停めてきてやるから」

 その中のひとりの言葉に反応して、フィラーナは慌てて上体を起こす。

「いえ、違います。私がここで降りたいと言ったので、ちょうど良かったんです。私なら大丈夫ですから」

 素早く立ち上がり、人目を避けるようにしてフィラーナは歩き出した。初めは、身体がよろめきそうになったが、そのうち徐々に調子が戻っていくのを感じる。

(私ってば、意外とタフね……。こんな令嬢、他にいないかも)

 自嘲気味な笑みを浮かべながら顔を上げれば、レンガや石造りの建物の間から、小高い丘にそびえる荘厳な王城が見えた。つい先ほどまであの場所にいたのに、今は馴染みのない街にたったひとりで放り出されてしまったなんて、にわかには信じられなかった。

(……ウォルフレッド殿下……)

 心細い、とはまさにこのことだ。
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