冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
不穏な影
 その翌日、朝食を終えたフィラーナが、メリッサの淹れてくれたお茶を飲んでいた時だった。扉がノックされ、女官長に連れられて入ってきた人物たちを視界に捉えた途端、思わず身体を硬くする。

 ミラベル、コリーン、エイミーの三人だ。無意識に身構えるフィラーナとは対照的に、三人はこの前とは打って変わってすっかり戦意を消失させて、曇った表情のまま頭を垂れた。

「先日は、大変申し訳ありませんでした」

 突然の謝罪に、フィラーナは戸惑いを隠せない。よく見ると、コリーンとエイミーは涙ぐんでいる。ミラベルはどちらかというと反省よりふてくされている割合の方が大きいようだ。

 返事に困窮しているフィラーナに、女官長が説明を加えた。この三人は早朝、王太子に謁見の間に呼び出されたという。そこには、離宮の森の納屋から押収された、ボロボロのドレスが床に置かれており、壇上からは王太子の射抜くような冷ややかな視線が三人に降り注がれていた。

『このような所業、王太子妃としての資格を持つ者の行いとは到底思えぬ。正直に罪を認めるなら、今回は王城追放だけに留め、不問に処す』

 こうして三人は罪を認め、謝罪に訪れたのだ。あとに引きずることを得意としないフィラーナが「本当に反省しているなら……」と寛容な態度を示したことに彼女たちは安心したのか、最後はホッとしたような穏やかな表情で、部屋をあとにした。

 謁見の間にいたレドリーからあとで聞いた話だが、全身の血が凍ってしまいそうなウォルフレッドの声に、コリーンとエイミーは泣き出し、ミラベルは泣きはしなかったが青ざめた様子で罪を認めたのだという。
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