冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 そのまま中へ続く道を抜けると、城の壁が間近に迫り、やがて城の入り口にピタリと馬車が寄せられた。実家から付き添ってくれていた使用人たちは城に足を踏み入れることが許可されていないため、ここでお別れだ。

 入口を守る衛兵が声高らかにフィラーナの到着を周囲に伝える。フィラーナが緊張した面持ちで外に出ると、衛兵と侍従と侍女が合わせて五十人ほど、彼女を出迎えるように整列していた。侍従長と女官長が折り目正しく挨拶をし、フィラーナも先ほどまでの態度を封印して、優雅にドレスをつまんでお辞儀をした。

 女官長によって案内されたのは、王族の居城部分ではなく、美しい庭を眺めることのできる回廊を進んだ先の離宮のような建物で、二階の南東側の部屋がフィラーナに充てられた。

 離宮といえども、部屋の広さはひとりでは充分すぎるほどで、陽当たりも風通しも良好だ。調度品は派手ではないが、落ち着いた高級なものばかり。王太子の妃選びが終わるまで、ここに滞在することになる。

 隣の衣装部屋で、先に運びこまれていた荷物を片付けているのは、メリッサという名前の茶色の髪を後頭部できっちりとまとめた二十歳ほどの侍女で、今日からご滞在の間フィラーナ様の身の回りの世話をする者です、と女官長から紹介を受けた。歳も近いせいか、メリッサの明るい笑顔にフィラーナはすぐに好感を抱いた。

「さすがは高名なエヴェレット侯爵家のお持ちものですわ。どれも素敵なドレスばかりで目移りしてしまいます。まもなく王太子殿下と謁見される時間になりますけど……こちらのピンクのドレスはいかがですか? フィラーナ様の美しい髪色によく映えます」

 衣装整理をしていたメリッサがそのドレスを抱えてフィラーナの元にやって来た。

「ええ、メリッサに任せるわ」
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