冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 唯一、変化のあった出来事といえば、昨日、ミラベルの部屋で小さなお茶会が催されたことである。

『皆さん、退屈なさってるんじゃないかと思って。今日は楽しい時間を過ごしましょう』

 ミラベルは七人の令嬢を自室に招待して、実家から持参したという高級茶と、わざわざ取り寄せた焼き菓子を、皆に振る舞った。

 自然とまず、話題は王太子について。やはり、誰も王太子とは接触しておらず、これから希望があるのかと不安になり、途方に暮れているようだ。

『王太子様がテレンス王子みたいに、優しい方だったらいいのに』

 令嬢のひとりが呟くと、同調するように周囲も頷く。フィラーナだけが、ややキョトンとしてしまった。テレンスというのは王太子の弟の名だと昔聞いたことはあるが、それ以外の性格や容姿など詳しく知らない。

(皆、いろいろ知ってそう。というより、きっとこれまで関心を持ってこなかった私の方が変わってるのよね)

 ちょうど話の流れが王家の人々について向き始めたので、フィラーナも知識を埋めるようにじっと耳を傾けた。そして初めて聞く内容に、平静を取り繕いながらも心の中では驚きっぱなしだった。

 実は、国王には三人息子がいて、それぞれ母親が違う。

 ウォルフレッドは第二王子だが、かつて王太子だった第一王子のエリクが死亡し、弟のウォルフレッドに継承権が移った。

 エリクとウォルフレッド、それぞれの母親は側妃で、第三王子のテレンスのみ母親は正妃。

 三人の母親はいずれも故人。国王はそのあと誰も妻に迎え入れなかったため、現在この国に王妃は不在である。

 エリクには息子がいて、名前はセオドール。現在十三歳で、ウォルフレッドの保護下にいる。

< 47 / 211 >

この作品をシェア

pagetop