エリート弁護士と婚前同居いたします
混乱
終業時間になり、瑠衣ちゃんに言われたことを反芻しながら帰路についた。

午後八時半すぎの電車は帰宅ラッシュというほど混み合ってはいない。座席はすべて 乗客で埋まっているけれど立っている人はまばらだ。
 ドアの右横に立つ私の真向かいに、この路線でよく見かける制服を着た高校生の男女が、仲睦まじくドアに凭れて立っていた。そんな光景は日常茶飯事で今まで気に留めたことすらなかったのに、どうしてか今日は胸がざわつく。

 電車の窓に映る私はワッフルスリーブの長袖シャツに紺色のパンツ。シンプルな服装を好む私にアクセントになるようにと親友が以前勧めてくれたショッキングピンクの小ぶりなショルダーバッグ。どこから見ても成人した大人の女。
 アハハ、と疲れた表情の乗客が多い車内に、明るく高い女の子の声が無邪気に響く。その声にギュッと瞼を閉じる。

 姉は残業で遅くなると事前に連絡をもらっていたので、最寄駅に隣接しているスーパーに立ち寄った。夕食は普段から姉が冷凍してくれているおかずをいただこうと考える。相変わらずおんぶにだっこの食生活を送ってしまう私。そのお詫びがてらに今朝姉に頼まれたおつかいを済ませる。姉にご飯を作ってもらうせめてもの恩返しに私は食材を買い出しに行くことが多い。

 今日もそのつもりでいつものように買い出しにやってきた。几帳面な姉は一週間の献立を大体決めている。料理は苦手だけど姉との長年の同居のおかげか、少しはできるようになってきた。
 何も考えずに機械的に買ったものを、買物袋に詰める。その時ななめがけにしたバッグの中のスマートフォンが振動していることに気づく。
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