エリート弁護士と婚前同居いたします
葛藤
心の葛藤を抱えたまま時間は過ぎ、いつの間にか八月も半ばを過ぎていた。侑哉お兄ちゃんと姉は大阪に引っ越し、姉も無事に大阪支社への異動が認められ、多忙な毎日を送っているらしい。近くに住んでいないことは寂しくもあるけれど、朔くんが毎日傍にいてくれるおかげで私はふたりの引越しを笑顔で見送ることができた。

 昼休み、駅ビルの中にある本屋で雑誌を選んでいるとスマートフォンが振動した。液晶画面に表示された名前は親友のものだった。
「もしもし、詩織?」
早足で本屋を出て、近くにあった階段の踊り場に向かう。

『お疲れ様、茜!』
 耳に響く親友の明るい声。彼女は普段からとてもエネルギッシュに働いている。彼女に朔くんのことを会って相談したかったのだけど、私と予定がなかなか嚙み合わずにいた。
彼のことは電話で何回か説明はしていたので彼女も知っている。私の乏しい男性遍歴をしっかり理解してくれている頼もしい親友も今回の同居に反対しなかった。
 姉と同じように彼との同居を勧める彼女にいささか疑問を感じたくらいだ。誰かひとりくらい怪しんでくれたっていいのに、と裏腹なことを思っていた。

「どうしたの、こんな時間に電話かけてくるの珍しくない? 何かあった?」
 彼女とは大体仕事帰りか夜遅くに電話で話すことが多く、日中はメッセージアプリを利用することが多いので心配になって尋ねる。
『何もないわよ、大丈夫。ねえ、今日の夜って時間ある?』
 どこかの駅にいるのだろうか。彼女の声の背後に電車の音が聞こえてくる。
「うん、特に予定はないけど」

 頭の中で今日の予定を反芻する。今日は誰とも約束していないし、今の状況だといつもと変わらない時間に退社できるだろう。朔くんからは午前中に、今日は遅くなるとメッセージが届いていた。夕食は一緒にとれないとのことだった。

『よかった! じゃあ一緒にご飯食べに行かない? いつもの焼鳥屋さん! 久しぶりに茜に会いたいし、上尾さんの話も聞きたいし』
 快活に彼女が言う。
「うん、行こう! あ、でも晃くんはいいの?」
詩織の彼氏で同棲相手である晃くんのことを尋ねる。

『大丈夫、今日は接待で遅くなるの』
「そっか、じゃあ気兼ねなく話せるね!」
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