愛を呷って嘯いて


 同居一日目。十四年間ほとんど会話がなかったわたしたちは、やっぱり上手く会話ができなくて、気まずい夕飯のあと、お酒を持ち出した。アルコールを入れれば少しはこの重苦しい雰囲気が紛れるかな、と。そういう軽い気持ちだった。

 ビールに日本酒、ワインに梅酒、焼酎に酎ハイ、ウイスキーにリキュールまで。家中のお酒をかき集めて、とりあえずビールで乾杯。

 一杯目はお互い無言でお酒を呷り、リビングにはバラエティー番組の賑やかな声だけが響いていたけれど、二杯目になるとぽつりぽつりと会話を始め、四杯目を飲み終える頃には映画や小説や音楽の話までできるようになった。

 五杯目を空にし、次は何を呑もうかと選んでいると、彼がウイスキーの瓶に手を伸ばす。あまり飲んだことがないからチャレンジしたいらしい。

 グラスに少しウイスキーを注ぎ、においを嗅いで、ストレートで一口。途端にげほげほとむせだした。さすがに普段ビールくらいしか飲まないらしい彼が、アルコール度数四十五パーセントのウイスキーをストレートで飲むのは無理がある。炭酸水で割って、ハイボールを作ってあげた。これならすっきり飲めるだろう。

 度数の高いアルコールを入れたら、ふたりともさらに饒舌になって、使っているシャンプーや洗剤の話までできた。この数時間で、わたしはだいぶ彼に詳しくなった。

 アルコールを入れただけでこんなに話せるようになるのなら、もう少し早くにそうしていれば良かった。成人して七年。お酒が飲めるようになって七年も経つのに、今頃気付くなんて。



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