Shine Episode Ⅱ
Episode Ⅱ

1. 別離



クリスマスイルミネーションが煌く街中を歩く足取りは重く、行き場のない心を抱えているためか、水穂の表情は明るいものではなかった。

行きかう人々が誰も彼も幸せに見えて無性に腹立たしくなってくる。

それなら真っ直ぐ家に帰ればいいものを、つい繁華街へと足を向けてしまうのは、静けさに身を置くのが怖いからだとわかっていた。

あの夜から何日が過ぎたのだろうか。

指折り数えようとしてポケットから手を出したが、冬の冷たさにすぐに手を引っ込めた。

籐矢の顔を思い出そうとすれば、辛そうな顔と笑顔とが交互に頭に浮かび、何か言いたそうな顔は今にも水穂に語りかけそうだ。


”連絡ぐらいしなさいよ!”


着信などあるはずのない携帯に、つい声を出して無理難題を言う。

籐矢の行動を知る者は少なく、室長の元に時々入る連絡も誰かを通じてのもので、それも、滞りなく任務遂行中であるとの事務的な連絡だけ。

無事であることは確認できていたが、それだけだった。


食事は満足に食べてる? 

寝るところは確保できた? 

風邪なんてひいてないよね……


プレゼントを抱えて行き交う人の波を立ち止まって眺めながら、携帯に向かい彼への想いを並べるが、答えが返ってくるはずもなく空しさだけが増していく。

そのとき、文句を言い放った携帯が着信音を告げ、水穂はビクッと大きく体を震わせた。

送信者名を確かめ、ふわりと微笑みが浮かぶ。

冷え切った指で返信を打った。


『すぐ行きます』


もう一人、同じ思いをしている人の元に行くために、水穂は勢いよく足を踏み出した。
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