夏が残したテラス……
いつもと違う夏の始まり
バーベーキューの片づけも済み、シャワーを浴び二階へ上がろうと階段に足を乗せると、みんな帰って誰も居ないと思っていた店から明かりが漏れていた。

 電気の消し忘れかと、店のドアノブに手をかけた……


「いつまでも、この店を手伝わせる訳にはいかんと思っているんだ……」

 ドアの隙間から、パパの静かな声が響いてきた。


「それは、どういう意味で……」

 海里さんの声が返ってきた事に驚き、ドアノブに伸ばした手が止まった。


「さっきユウも言っていただろ? 仕事の事だよ。そろそろ本気にならんといかんのじゃないか?」


 仕事の事だと、少しほっとする気持ちと、ずっと気になっていた海里さんの仕事の事に、立ち聞きなんてよくない、と分かっていても足が動かない。



「僕は、いつだって本気だし、自分の事は自分で考えているつもりです」


「だが、周りはそう思っていない事もあるじゃないのか? お前にも、お前の立場があるはずだ。店の事は本当に助かっているが…… いつまでも甘えてるわけにはいかんよ」

 コトッとテーブルにグラスが置かれる音がした。

 カウンターで水割りでも飲んでいるのだろう?


「俺は、俺のやり方で認めさせますから」

 表情は見えないが、海里さんは厳しい顔をしているんだと思う。

 聞いた事もないはっきりとした口調だ。


「親とはちゃんと話が出来ているのか」


「…… いえ……」

 海里さんの重い小さな声が聞こえた。


「ふう―っ」

 パパのため息が漏れる。

「俺の事よりオヤジさん、リゾートホテルの方は大丈夫なんですか?」

 海里さんが、話題を変えるように、声のトーンを変えて言った。
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