夏が残したテラス……
はじめての海 ~海里~
思ったより雨も風も激しい。車のワイパーのスピードを上げても、雨をよけきれない。

プルルル…… プルルル……

 助手席の鞄の中からの音だ。

 俺は、なんとか車を路肩に止め、鞄からスマホを取り出した。
 青く光った画面からは、おやじさんの名が写っていた。

「もしもし」


「海里、今どこにいる」


「大阪から戻る途中ですよ」


「峠は越えたか?」


「ええ、とっくに……」
 俺の言葉に、おやじさんがほっと息を吐いたのが分かった。


「悪いが、奏海が家に一人で居るんだ。様子を見に寄ってくれんか? 峠が通行止めで戻れないんだ」

 俺の中で、背筋にゾッと嫌な感覚が走った。


「奏海が一人?」


「ああ…… すまん」


「分かりました」


 おやじさんの返事も聞かないまま切ったスマホを、助手席に放り投げた。

 お俺の、ハンドルを握り直し手が微かに震えていた。

 この嵐の中で、奏海が一人…… 
 奏海は、まだ、嵐の夜に一人なんて居られない。
 ハンドルを握った手に力が入った。



 奏海に始めてあった時、俺はまだ大学生だった。奏海もまだ高校生だった……
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