幼なじみの甘い牙に差し押さえられました

4 マグカップと過去に触れる痕

ハロウィンから数日たったある日、住まわせて貰ってるお礼に掃除くらいしようかと本棚のホコリを拭いていた時のこと。


仕事の資料なのか輸出入やマーケティングの本が並ぶ中、本がやたらと詰め込まれてる場所がある。


「涼介ってば、意外と雑な置き方するなー」


縦横に乱雑に詰めこまれた本を取り出して、ひとまず床に積み上げる。全体のスペースを調整したら全部きれいに入りそう。

本を取り出していると、奥まった場所にノートが納められていた。数冊まとまっていてどれも古い。一番端のは小学生が使うようなノートで、表紙には昆虫の写真が載っている。


「学習帳かぁ。懐かしいな……」


手に取ると大きな文字で「水なせ涼介」と書いてある。


「まだ『瀬』が書けないんだ!可愛いー!」


小さな頃の涼介を思い出してきゅんとした。勝手に見たら悪いかなと思ったけど、子供の頃のノートなんだから罪のないことしか書いてないハズ。

好奇心に勝てずに興味本位でページを開くと、子供らしい濃い鉛筆書きで何か書いてある。


〝10月2日 いつも夕方に公園にいる。〟

〝10月3日 今日も公園にいる。〟


「生き物の観察日記かな?可愛い…!」


〝10月4日 今日も公園にいる。〟

〝10月5日 今日も公園にいる。〟


「あはは、毎日同じ。ウケる」


それからも同じ内容が続いて、次のページでやっと変化があった。



〝10月19日 すべり台の上からジャンプして一回てんしてちゃく地してた。どうやったらあんなことできるんだ?〟


〝10月20日 ついに話しかけた!やった!!〟


「観察相手ヒトだったんだ。ていうか話しかけるまで長っ!」


〝10月24日 おかしをあげたら食べた。〟

〝10月25日 おなかが空いてるのかと思って、おにぎりを持っていったらいらないと言われた。なんかはずかしかった。〟


「あっははは、『なんかはずかしい』って!
あの涼介が書いてると思うと面白い」


〝11月1日 夜に公園にいた。きれいな満月が見えたからここにいてラッキーだと言ってた。なんか悲しかった。〟


〝11月18日 もう公園は寒いと思う。 〟


「ん?何だろこれ」


〝11月24日 うちに来るか聞いたら行かないって言われた。どうしたらいいんだろう。〟


〝11月25日 電話番号を調べた。
相談センター
電話 xxx-xxxx 〟


〝12月5日 ケガをしてる


読んでいる途中に涼介が帰ってきた音がして、慌ててノートを戻す。床に積み上げた本も、元通りにぎゅうぎゅうに詰め込んだ。
< 43 / 146 >

この作品をシェア

pagetop