幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
隣にいる山下さんが吹き出した。笑う理由が分からなかったので視線を向けて問いかける。


「環くんがイケメンだから、同じ男でも色気にあてられたんだよ。ぶふっ……

ね、園田さん?」


うんうん、と園田さんが慌ててうなずく。なんだか様子がおかしい。


「体全体の疲れなら手のひらのツボの方が聞きますよ。えーっと、確かこの辺の」


「ぎゃ! ぼ、ぼく奥さんいるからぁ!」


指の付け根のツボを押そうとしたら園田さんは謎の言葉を残して逃げてしまった。荷物運びの後だから力加減を間違ってしまったのだろうか。







「これ痛い?」


「いや、気持ちいい。すっげ幸せ……」


「良かった」


深夜に疲れて帰って来た涼介に同じようにツボを押してみたところ、痛くはないようでほっとした。ソファーの前のローテーブルには、オカピとハリネズミ柄のマグカップが湯気をたてて2つ並んでいる。


「忙しそうだけど、大丈夫?」


「この程度で根を上げるほどヤワじゃないよ。それに環に癒してもらえたし」


「でも涼介、仕事抱えすぎだよ。周りのことも大事だけどもう少し自分のことちゃんと……」


「それなら、もう少し甘えていいか?こういう方が元気出るから」


疲れのせいか顔色の悪かった涼介が艶っぽく笑う。頭の後ろをに手を添えられて涼介のまっすぐな唇が近づき、かぁっと顔が火照った。過剰反応してしまう自分が恥ずかしい。


「可愛すぎ……ヤバ、変な気起こしそう」


唇は、予想に反して頬にそっと触れた。淡い感触の後、急過ぎるほど早く涼介の腕が離れる。


「環も早く寝ないと、俺に付き合って夜更かししてたら体に悪いぞ。」


「…うん」


でも涼介、何だかこれまでと違う?

ほんの少しだけど、よそよそしい感じがする…。一度気になってしまうと心がざわついて、涼介がその場を去った後もしばらく動けなかった。





「……何で……してくれなかったのかなー……」


「環くん、今何かやらしーこと考えてた?」


「ぎゃ、わっ……!違うっっ!」


翌日、会社で荷物を運んでいたら山下さんが近くにいた。油断しきっていた時に声をかけられたので、心臓がばくばくと音を立てる。


「冗談はさておき、何でわざわざ配送センターから荷物運び出してるわけ?」


「アンルージュの商品を置いてる場所を、他の用途で使うそうなんですよ。だから一時的に移動してるんです。」


「へーぇ。スペース余ってるように見えるけどねぇ……。それ重いでしょ、とりあえず手伝うよ。」
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