食事を終えた私たちは、咲さんに挨拶をすると、店を後にした。
これから行く場所が、柏葉さんの実家だと思うと、それだけで一気に緊張してくる。
柏葉さんが好きでもない相手と結婚しなくて済むよう手伝うなんて言ったのはいいものの、婚約者としてうまく演技ができるのか、不安しかなかった。

お祖母様の大好きだというモンブランを、近くのデパートの中に入っているケーキ屋さんで買い求め、いざ柏葉さんの実家へと向かう。

柏葉さんも緊張しているのか、デパートを出た後は、ずっと無口なままだった。


「章吾さん」


本番で失敗してボロが出ないように、柏葉さんの名前を呼ぶ。
柏葉さんは、少し驚いたように、私に視線をよこした。


「ありがとう、日菜乃」


優しく微笑まれ、私もそのまま笑顔を返す。
でも、この笑顔は私に向けられたものじゃない。
柏葉さんの大好きな人に向けられるはずのもの。
なぜ、柏葉さんがまだ彼女を実家に連れて行くことができないのか、その詳しい理由はわからなかったけれど、本当は彼女を連れて行きたかったはずだ。

デパートを出て15分程走った車は、やがて大きな庭園の前に差し掛かる。

宿泊施設かなにかだろうか。
手入れの行き届いた庭園、その奥には何棟かの建物があった。

柏葉さんはその庭園の周りを少し走ると、やがてウインカーを右にだす。
そこに現れた大きな門扉は、さっきまで見ていた庭園への入口だった。

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