さようなら、初めまして。
・2週間目
いつも挨拶を交わさなかった事はないのに、あれから百子さんと顔を会わせていなかった。
おはよう、逢生ちゃん、おかえりなさい、逢生ちゃん、と聞かないと、心配になってしまう。

多分、気にしてるんだと思った。人違いしてしまった事。
そして、それが私を傷付けたと思ったんだ。
それは、大丈夫だ。大丈夫って、間違ってしまった事にだ。きっと、悪気なんてない。
私は、んー、…。やはり、大丈夫ではないかも知れない。
百子さんがジンさんを見て、悠人と呼んだ事。
容姿も違うジンさんを、何故、悠人だと思ったのか。
それは有り得ない事なのに。
姿は違っても、感じる雰囲気が似ていたという事だろうか。確かに…、言葉遣いは丁寧とは言えないけど、温かい感じは似ていると言えば似ている部分なんだろうか。でも、それだけでは…。
…それとも。
ジンさんの後ろに、悠人が居た、とか。…それは、無い、かな。それだと、もっと気になってしまう事になる。悠人と連絡さえ取れれば…、こんな事…こんな思いもなくなるんだけど……。
何にしても、百子さんが元気にしてるかどうかが普通に気になった。
いつも受け身なんだから、こういう時こそ、自分からだ。

コンコン、コンコン。頭ではコンコンのつもりだが、実際はガラスの振動する音がして、ガシャンガシャンと玄関の引き戸の枠をノックした。

「百子さん?逢生です。…百子さ~ん、居ますか?」

…留守かな。
直ぐに玄関には来れないだろうけど、返事もないなんて。…可笑しい。留守なら仕方ないけど……まさか。

「百子さん…。百子さ~ん!」

ガタッ。……居る?今の音…居るよね?

「ん゙、ん゙。は…い゙…」

居た~。…でも声、変じゃない?

「百子さん?大丈夫ですか?」

ゴトゴト音がしてる。玄関に来てるようだ。
ガラ、ガラ、ガラ。
あ、開いた。

「あ゙い゙ちゃん、だめ、ん゙ん゙、私、かぜ…」

あ、百子さん…。
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