私は強くない
2人の課長
都築は、部下である倉橋からの申し出に少し驚いていた。
女性ながら、役職について仕事をしていることから、責任感や仕事への情熱を日々感じていただけに、古巣である営業部に戻りたいと希望してきた事に。
以前、営業部で直属の上司であった、名取からは倉橋の仕事ぶりを聞いていただけに、営業部での仕事に対して、何かしらの気持ちが残ってるであろう と思っていたが、ここ数年そんな事も考える事もないぐらいに、人事に対しての仕事に忠実にやってきてくれていた。
それがここに来て、戻りたいと。
口添えして欲しい、と言ってきた事に。

「倉橋も人事部に異動になって3年か、早いものだな」

都築は、慶都が営業部から人事部に異動になった時の事を思い返していた。
入社以来、営業畑でやってきた倉橋だけに、なかなか人事部に馴染めなくて大変だった事を。

「名取に連絡するか」

そう言って、内線で営業部、名取に連絡を入れた。

「はい、営業部、名取です」

「俺だ」

「あのな、都築。分かるからいいが、会社でそんな電話の入れ方するなよ」

「分かるからいいじゃないか」

都築と名取は、同じ時期に昇進し課長になった同期。
若くして課長になった事から、周りからは一目置かれている存在である。

「まぁ、いいじゃないか、話があるから内線入れたんだ、今日夜空いてるか?」

「話って、仕事の話か?ここじゃ出来ない話か?」

「出来なくものないんだが、まぁ、たまにはいいだろ。飲みながらでも」

「分かった。時間とか、また連絡入れといてくれ」

「分かった、また電話かメール入れるよ」

そう言って、名取との電話を終わらせた。



…………


今日は、都築課長に話が出来てよかった。
考えてくれる、って言ってたし。
夢じゃないかもしれない。
営業部に戻る事。

都築課長に、話した事で営業部での仕事していた時の事を思い出していた。

あの頃は、営業の仕事に慣れてきて、楽しいって思えるようになっていた事を。上司である名取課長とよく残業して、プレゼンに使う資料とかを作っていたなぁ。ほんと、あの頃は楽しかったな、仕事が。
今の人事の仕事も、やりがいのある仕事だけど、違う何かがあったのも事実。
3年前、人事異動があった時、どうして私が人事部に?って思ったもの。
納得いかなかったのも。
そう言えば、名取課長に食ってかかってたっけ。
どうして?って。
それから考えたら、3年も人事部でなんとか頑張ってこれたんだからえらいよね。うん。

都築課長には申し訳ないけど。
< 16 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop