私は強くない
行き場のない気持ち
「倉橋ー!会議の資料出来てるか?」

「はい、用意出来てます。この間話されてた、東和堂の件ですよね?」

「お、ありがとう。助かるよ。今日の会議は倉橋も出席頼むよ、いいな?」

「え?今日は課長以上の出席じゃなかったですか?」

「そうなんだがな、今日はまぁ、あれだ書記を頼むよ。今日は常務までの出席だが、秘書がいないから書記がいないんだよ」

笑いながら都築課長が続ける。

「俺らの誰かが、書記すると思うか?」

「確かに。けど、名取課長とかしてくれそうじゃないです?」

「名取か、あいつはないな」

「どうしてです?」

「今日の議長はあいつなんだ」

「あ、それは無理ですね」

「だろ?常務には話してあるから、書記頼むよ」

「分かりました」

「名取には、この間の事は話してあるからな」

「ありがとうございます」

頭を深く下げた。
都築課長から、会議の書記を頼まれた事もあり、名取課長も出るんだから会議が終わったら、外で会えるか聞いてみようかな、会社の中じゃ中々話出来そうにないし。


会議が無事終了。
少し予定していた時間より、遅くなったが無事終了した。

一緒に片付けをしている名取課長に話をした。

「名取課長、この後、少し時間取っていただけませんか?」

「おう、俺も話したかったんだ。都築から聞いてるよ。その事だろ?」

「は、はいっ!ありがとうございます」

私と名取課長は、会社を後にして近くの居酒屋で話をしていた。
都築課長に話した事と、同じ事を。

「倉橋、3年前の事怒ってるか?」

「え?人事の事ですか?」

「ああ…」

3年前の事を、言われて考えてしまった。怒ってるかと聞かれて困ってしまった。確かにあの時は、名取課長に納得がいかないと、しつこいぐらいに詰め寄った。
けど、会社の決定事項だと言われれば、会社員である以上従わないといけない。納得せざるを得なかった。
だから、名取課長に対して、怒ってると言う感情は持っていなかった。と言うのが本音。

「怒ってないですよ。名取課長も悔しい、って言ってくれたじゃないですか」

「そうか。そう言ってくれると俺も助かるけどな。都築から聞いた時は、びっくりしたんだがな。何でまた営業部に戻りたいと?」

来た。

男と別れたから、仕事に生きるなんて言えない。

「最近、仕事していく中でやり残した事がないかなぁって考える事が出てきたんですよ。人事の仕事ももちろんやりがいのある仕事なんですけど。…でも、元々営業希望だった私には、やっぱり未練と言うか、やり残した事がそこにあるような気がして…」

「なるほどな。倉橋の気持ちは分かった。都築も話したと思うが、俺達が話したから決定になるとは限らない、それだけは分かってくれ」

頭を下げる名取課長に、恐縮する私。

「頭上げて下さい、名取課長。話を聞いてもらっただけで十分です。ダメだった時は人事部で頑張りますよ」

これも本心。
本当にそう思っていた。
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