私は強くない
甘えてもいいですか?
仕事の帰りに、倉橋と飲みに行った俺は、酒につぶれた倉橋を家に連れて帰ってきた。

倉橋を、抱いたままドアを開ける。

思った程、倉橋が軽くてビックリした。しかし、抱き上げた瞬間、女性特有の柔らかい肌の感触に理性を失いそうになった。

ダメだ。
俺は上司だ。
言い聞かせる。

部屋に入った所で、眠っていた倉橋が目を覚まし、盛大に俺の腕の中で暴れた。

「わ、あ、危ないって、倉橋」

あまりの暴れ具合に、倉橋を落としそうになる。
しっかり、ガードし近くのソファに座らせた。

申し訳ないと思っている倉橋は、ひたすら謝っている。
俺としては、倉橋がスッキリ出来たらいいだけなんだけどな。

ただ、いつもの倉橋と違う気がして、酒が強いのにどうした?と言ってしまった。
そこから、倉橋の様子がおかしくなったのが分かった。

帰ろうとする倉橋の目に、涙が溜まっているのが分かった。
今まで、会社内で何があっても泣かなかったのに…
下を向いて帰ろうとする、倉橋の腕を掴んだと同時に、抱きしめていた。

倉橋もビックリしていた。
泣くのを我慢しているのも、分かった。泣いていいと言っても泣こうとしなかったが、

「倉橋、楽になるんだ。俺しか聞いてないから。大丈夫だから…」

と、さらに強く倉橋を抱きしめた。
線が切れたように、声に出して倉橋は泣いた。

こんな倉橋を俺は見た事がなかった。
泣きじゃくる倉橋の頭を撫でて、撫で続けた。

「うっ、私のどこが悪かったの?私は強くなんかないよ!うーっ、好きだったのに…ひどいよー…っ、二股なん…て」

都築の言うように、男と別れたんだな、そう確信した。しかも二股だったとは。どこまで倉橋を傷つけたんだ、そいつは。どんな奴かも分からない相手に腹が立った。

どれくらいしただろうか、ソファに座ったままの状態で、倉橋を抱きしめていた。俺の腕の中で、泣き疲れて眠っていた。

もう、上司でいられないそんな感情が、そして決心した。

泣き疲れて眠る倉橋を、ベッドに寝かせると、そのまま一緒にベッドに入り、腕の中に倉橋を抱きしめて、涙で濡れた頬に唇をつけた。

そして、眠る倉橋にキスをしていた。
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