家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
4.ワンコ系令嬢の仕事はじめ
ロザリーは酔いに任せて、自分の過去を紡いだ。

事故から目覚めてから異様に鼻が利くこと。
この街の夢を見るようになったこと。
代わりのように自分の記憶が抜け落ちていて、感情が欠落してしまったこと。
感情を取り戻したくて、屋敷を抜け出して旅をしていること。

酔ってはいたものの、夢の主人公がリルという名の犬であることを伏せることは忘れていない。屋敷からは勝手に抜け出したことにした。そのために話はずいぶん分かりにくかったと思うが、ザックはずっと頷きながら聞いていた。つじつまが合わないところは酔っ払いの話と聞き流しているのだろう。


「つまり、君は一度も来たことのないこの宿のことを夢で見たと」

「はい。夢の中の私にはちゃんと感情があるんです。だからここにいれば、私の失っている感情も取り戻せるんじゃないかと思って」

(こんな変な話、本当に信じてくれるんでしょうか)

ロザリーは酔いでぼんやりしたままザックを見つめる。
彼はしばらく考え込んでいたかと思うと、頷いた。
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