独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
7.恋心
季節はのんびりと移ろい、十月の半ばに入った。
彼と私の関係は相変わらずだ。いつものように出勤し、通常業務をこなす。人事部に頼まれていた備品を届けるため、総務部を出る。人事部に向かう途中、廊下で梓に会った。

「お疲れ様、橙花!」
快活な梓の声に、私は笑顔で返事をする。

「お疲れ様、梓。今、人事部に向かうところだったの」
「そうなの? ああ、これ! 私がこの間お願いしていた備品ね? 助かる、ありがとう!」
そう言って私が腕に抱えていた荷物を梓が取り上げる。

「いいよ、人事部に持っていくよ? 梓、何か用事があるんじゃないの?」
私と反対方向からやって来た彼女にそう言うと、梓は小さく首を横に振る。

「ううん、広報部に行ってきたの。菜緒に急ぎの用事があるって呼び出されて何事かと思って行ったらほら、見て、これ。菜緒が悲愴な顔をして渡してきたの」
そう言って梓は苦笑しつつ、小脇に抱えていた女性誌を私に広げて見せてくれた。

菜緒は同期の女性社員だ。彼女が開いたページには煌生さんが載っていた。ヒュッと息を呑む。途端に鼓動が急ぎ足になっていく。

その記事は記者からの質問に答えるといった一問一答形式のインタビューのようだった。そう言えば以前に彼が婚約者について取材をうける、と言っていたような気がする。

薄いグレーのスーツに身を包み、高めのスツールに腰かけ、緩く足を組んだ彼は写真とわかっていても見惚れてしまうくらいに素敵だった。信じられないくらいに小さな顔と足の長さが際立っている。
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