結婚願望のない男
2章 付き合って三か月の彼女になりました
「れんたる…かのじょ?」

思わずおうむ返しに聞き返していた。

「つまりは、一日だけ彼女役を演じてほしいってことなんだが」

「あの…そんなに愛に飢えてらっしゃる…?」

私がおずおずとそんなことを言うと、「妙な言い方をするな」とまた睨まれた。

「個人的な話で申し訳ないけど、確かに俺にはもう数年恋人がいない。俺自身はそれでいいと思ってるんだが…俺の母が心配性なんだ。心配するだけならともかく、最近俺のことをゲイだと疑ってるフシすらある」

「ゲイ…!?」

「だから、断じて違うぞ?ただ母は口が軽いし、近所に俺がゲイなんじゃないかと相談しかねないから、どうしたもんかと思っていて」

山神さんは深刻な表情でため息を吐く。とりあえず、ふざけているようには思えない。

「一回彼女を紹介しておけば疑いも晴れると思うから、彼女のふりして俺の実家に来て一緒に飯だけ食ってほしいんだよな。別にすぐにとは言わないよ、怪我が治って治療費もまとまったところで、あんたの気が向いたらでいい。『彼氏がいるから知らない男の実家に行くのは無理』…と言うならならそれはそれで諦めるし。あんたが無理なら会社の同期の子に頼むか、ちょっと抵抗はあるが本物のレンタル彼女みたいなサービスを頼ってもいいしな」

「はぁ~…」

予想外の提案に、なんと言葉を返したらいいかわからない。しばし沈黙が落ちた。

「…俺の最近の悩みはこのぐらいだな。たまに、俺の状況を探るような連絡いれてきて、遠回しに彼女連れてこいアピールしてくるんだよ。近所の誰それが結婚したとか、子供生まれたとか、会社に同世代の女友達はいるのかとか」

「…ちなみに山神さんのご実家はどちらでしょうか」

「神奈川の田舎のほうだよ。ここから電車で1時間以上かかるけど、新幹線や飛行機に乗るような距離じゃない。半日で終わる」

「そうですか…そうですかぁ…」

私はしばらく考え込んだ。

お金を受け取ってくれれば済むだけの話だったのに、見ず知らずの私に頼むぐらいだからよほど困っているんだろう。
確かに同期の女の子に実家に来てもらうのは気恥ずかしいだろうし、かといってレンタル彼女は怪しいのもいっぱいあるだろうし。
私ぐらいの距離感の人にさっと頼んで後腐れなく終わるのが一番楽なのかもしれない。
私も彼氏いない歴3年で、母からの『彼氏はいつ連れてくるのかしら』オーラに心を削られることがちょくちょくあるから、親からの圧力がつらい彼の気持ちはちょっとわかる。

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