翌日も午前中はごろごろしていた。一応、午後からバイトがあるから、今更友達と遊ぶ約束もできない。
前までは、空いた時間は爪を塗り直したり、髪の毛先を巻いてみたり、腹筋してみたり、美顔ローラーで輪郭をくるくるしたり、ファッション誌を見るだけで時間は過ぎたのに。
今はどれにも興味がわかなくて、「つまんない」と「暇」をつい連呼してしまう。そうしている間に、来客を知らせる呼び鈴が鳴り、はっと起き上がった。

「宅配便でーす」

何かを期待すると、モニターに映っていたのは宅配業者で、少しがっかりする。なんでお隣さんだと思ったんだろう。
でも届けられた、段ボールの重たい荷物の送り主を見て浮上する。実家の母からの食糧支援だ。しかも、この時期のお楽しみは、

「やった! トウモロコシだ!!」

故郷の青森では「きみ」と呼ばれる黄色くて甘い夏の食べ物。親戚のおじさんの家で作った取れたての頂き物を、こうして母が毎年送ってくれる。
私は急いで収納の奥にあるパスタ鍋をとり出して、お湯を沸かしはじめた。
トウモロコシは鮮度が命。おいしくいただくには、一刻もはやく茹でなければならない。そして、それを冷凍しておけばしばらく保存もきく。

お湯が沸いたら縦にして鍋に入れるのがコツ。出来上がったら保存用は粗熱をとってからラップをかけるんだけど、今食べる分を何本残すべきか悩む。

「お隣さん、食べるかな……」

そういえば引っ越しの挨拶でりんごを持っていったら、とても喜んでくれたっけ。父の自慢のりんごだったから、「今まで食べた中で一番うまい」なんてべた褒めされて、うれしかった記憶が蘇ってきた。

このトウモロコシも、東京ではあまり買えない品種で、茹でたてを食べてもらいたくなってきた。味見のためにかじったひとかけが、やっぱりとってもおいしい。これなら自信をもっておすそ分けできる。

時計の針は、ちょうど昨日、五十嵐さんと会った時間。起きてる可能性が高そう。

「だって、ラーメンのお礼だもんね」

自分に言い訳をして、そそくさと皿に載ったトウモロコシを持って家を出る。

お隣のインターフォンを押すときは、ちょっとだけ勇気が必要だった。