紅茶以外のいい香りがしていたのは、気のせいではなかったみたい。トマトの入ったホットサンドまで、短時間で作ってくれるなんて。

私は十歳の子供でもできそうな、ただ茹でた「素材勝負」のトウモロコシ。
女子として太刀打ちできる気がしない。

「せっかくだから、先にトウモロコシいただこうかな」

五十嵐さんは一本手に取ると、がっつりとかじった。そして「おっ」っと驚いたように顔を上げる。

「めちゃくちゃ甘い」
「でしょう! でしょう!」

その一言で私は上機嫌になった。二人でトウモロコシをかじって、ホットサンドも頂いて、ストレートの紅茶で喉を潤す。

「おいしかった! なんだか毎日ごはんもらってしまって、すいません」

お礼をしに来たはずなのに、ちゃっかりそれ以上のものをもらっている。

「気にしなくていいよ。一人より二人で食べるほうが楽しいでしょう。……それよりコーン、口の端についてる」
「えっ」

指摘され、あわてて口元を適当にぺたぺたと抑える。取れたかどうか確認しようと五十嵐さんの方を向くと、あれ……なぜか思ったより顔が近くにあった。

「まだ取れてない」

ふっと目を細めた五十嵐さんの瞳の色に、すごく色気があるのはどうしてなんだろう。視線が絡み合っただけで、急に胸がどきどきしはじめたのはどうしてなんだろう。

指が口もとに近付いて、私の唇の端に触れた。

「キスしたら怒る?」
「へっ、あの、歯磨きをしていませんので」

動揺しすぎると、わりとまともな言葉が出てくるのかもしれない。食事をしたばかりでキスなんて、今までの私の常識ではありえない。うん、ありえない。
なのに五十嵐さんは、それを鼻で笑った。

「キスするのに、毎回歯なんて磨かない。したい時にしたい相手とする。それが大人のキスだろ」