「大人の! あの、でもわたし、五十嵐さんの下の名前も年齢も知らないし」
「五十嵐 新(あらた)、ぎりぎり二十代。よし、いいよな?」
「携帯とメアドと、それから……」
「それはあとで、だ」

息がかかるくらいの至近距離。
残りの数センチは、私の後頭部にまわった五十嵐さんの手に引き寄せられてゼロになった。

「んっ……」

キス、という表現が正しいのかどうか。唇をペロリと舐められた。動物のような行為。だけど犬や猫みたいにかわいい相手ではない。

「甘いな」

五十嵐さんが言った。
唇に、トウモロコシの甘さが残っていたせいかもしれない。でも人の唇についていた甘味なんて、味わわないで。
唖然として呆けていると、今度はいきなりねっとりと舌を滑り込ませてくる。
流れ込んでくる唾液にミントの味がしない。彼の言う通り本当に甘い。ちょっと舌をからませるだけじゃない。唇でこんなに深く繋がることができるなんて、知らなかった。

「や、……苦しい」

獰猛で、でも甘くてやわらかくて、とにかくいやらしい。身体の芯がきゅんとして、全部暴かれたような気分になる。恥ずかしすぎる。

「もう無理!!」

酸欠になる。もしくは心臓発作。苦しくて、私は五十嵐さんの胸を精一杯押した。
乱れた呼吸がもとにもどらない。私はたぶん顔も真っ赤で、動揺しすぎていて……、それなのに五十嵐さんは、ただ挨拶しただけですみたいに、なんでもない顔をしている。
 
敗北感と負け惜しみで、彼を思いきり睨みつけた。