「やばい、やばい、やばい、私何してるんだろう!」

五十嵐さんとキスをした。しかもなんかめちゃくちゃ激しいやつを。
ディープキスくらいで今更動じるはずもない。
でも、五十嵐さんとのキスは、私が知らないキスだった。深いだけじゃなくて、鼻で息をすることを忘れて、呼吸困難になるくらい激しかった。

彼氏でもない人と、あんないやらしいキスをするなんてよくない。でも五十嵐さんが予告してきたときに、私ははっきり「嫌」と言えなかった。

キスって、歯みがき……せめてミントタブレット食べた後にするものだと思っていた。少なくとも私の常識ではずっとそう。でも、五十嵐さんの常識は違った。そして私も汚いなんて少しも思わなかった。

まだ、痺れが残る唇にそっと触れてみる。
彼は、キスの途中で私の口に指を入れて、わざと大きく開かせた。歯が当たっても、気にした素振りも見せず、奥まで舌を滑り込また。
どちらのものかわからない唾液が絡み合って、溢れ出して、いやらしい音が響いて……。
 
だめだ、思い出しただけで、引きかけた熱が戻ってきてしまう。
 
「お父さん、お母さん、ごめんなさい」

あなた達が大切に育ててくれた娘は、都会の色にすっかり染まり、今、未知の領域に片足を突っ込んでしまいました。

私は結局すぐに、五十嵐さんのもとから逃げ出してしまった。
部屋に戻り、思い出しては顔を赤くし、床の上を無意味に転がって思い出しては挙動をおかしくしている。

そのせいで、危うくバイトに遅刻しそうになった。

上京してすぐにはじめたコンビニでのアルバイト。
心は浮ついて落ち着かなかたけれど、慣れた仕事だから、なんとかミスをせずにこなすことができた。

夜の九時にバイトを終えて、適当にお弁当を買って家に帰る。マンションの入り口でポストを確認すると、請求書やダイレクトメールが何通か。
それを無造作に取り出すと、隙間から小さな紙がひらりと地面に落ちていった。
 
「あれ、なんだろう?」