次の日もその次の日も、五十嵐さんと顔を合わせることはなかった。
もともと生活時間が違う。朝のゴミ出しの偶然でしか機会はなかったから、避けることは簡単だった。でも、心のどこかで本当は期待していた。五十嵐さんから、私に会いに来てはくれないのかと。

三日後には、やっぱりその程度だったのか、その気にならなくて良かったと安堵しながら、半分不貞腐れていた。
あのキスはなかったことにしたいけど、四日たっても、五日たっても、私の頭からなかなか消えてくれない。困った。

カードケースに入れた名刺を取り出して、スマホを片手に無駄に眺めてみる。意地を張らないで、最初に勢いで連絡すればよかった。今となっては「今更何か用?」って言われてしまうのが怖い。

悶々としながら一週間がすぎ、翌日の朝。

「おはよう」

玄関を開けたら、不機嫌な顔の五十嵐さんが部屋の前にいた。眠いのではなく、今日はたぶん怒ってる。根拠はないけれどそう感じ、私は思わず回れ右をしそうになった。
 
「こら、逃げるな。さすがに傷つくだろう」

扉の隙間にすかさず彼の長い足が入り込む。押し売りか何かでしょうか。
人が一人通れるほどに扉を引き戻されて、五十嵐さんは私の部屋の内側に入り込んできた。二人が狭い玄関に納まったところで、扉を閉められてしまう。
ワンルームマンションの玄関なんて、半畳もない。靴を履いたままでは、自然と距離が近くなる。後退しながら履いていたサンダルを脱ごうとしたら、引き留められように手を握られた。

どうすればいいのかわからなくて、私はしどろもどろだ。

「でも、あの、だって……」
「でも、だってじゃない」
「いえ、あの、いろいろわからなくて」
「何が?」
「五十嵐さんが何を考えているのか、よくわからないです」

どうして私に優しくしてくれたのか、どうしてキスをしたのか、たまたま近くにいた、暇そうで寂しそうな女をからかって遊んでいるだけなのなら、私には無理だ。