隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
お仕事で深夜か明け方に帰って来ても、ゴミ出しの時間は決められていて、勝手に夜中にだそうものなら住人の間でトラブルになる。彼は途中で一度起きて、律儀に時間を守っていたのか。それに一人で愚痴っている時とくらべて、私と会話をするときはわりと丁寧な言葉遣いだった。見かけよりちゃんとしている人みたい。
  
今まで「だらしなそうな人」と勝手に決め込んでいた後ろめたさもあって、エレベーターが到着したタイミングで、私は五十嵐さんのゴミ袋を取り上げて乗り込んだ。
 
「じゃぁ、ゴミは私が預かりましたから。一刻もはやく部屋に戻って寝てくださいね。おやすみなさい」

閉じるボタンを押しながら、五十嵐さんに手を振る。彼は私の思わぬ行動にあっけにとられた様子で、ぽかんと口を開いた顔のまま、閉まっていく扉の向こうに消えた。……正確に言うと消えたのは私だけど。

外に出るとまだ朝だというのに、セミは元気に鳴いていて、きつい日差しが襲い掛かってくる。

「今日も、熱くなりそうだなぁ」

寝起きでフラフラのお隣さんが、この厳しい太陽を避けられたのは、多分良かったことだと思う。かといって、大っぴらに誇れるほどの善行でもないが。

収集所に二つの袋を投げ入れた私は、そのまま駅に向かって歩き出した。足取りが軽かったのは、すでに心は今夜のデートの約束に浮足立っていたからだ。
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