うつむく私の上から、盛大な溜め息が降ってくる。

「真剣に、全力で口説いてるつもりだけど。それなのに逃げられたり避けられたりして、今かなり落ち込んでる。そんなに嫌だった?」

見上げると、愁いを帯びた表情で私をみつめる五十嵐さんがいた。彼にこんな表情をさせるなんて、ものすごく悪いことをしたみたいだ。

「ごめんなさい。嫌じゃ……なかったです」

私の否定に、五十嵐さんが満足そうにうっすらと笑う。あ、やばい。
ゆっくりと顔が近づいてくる。時間がスローモーションで流れているような感覚に陥る。届く前に唇を重ね合う妄想をしただけで、心臓が跳ね上がった。

「順番が!!」

ぎりぎりのところで、私は顔を逸らして、手をかざし阻んだ。
 
「順番?」
「た、たとえば、デートをして、ちゃんとお互いの気持ちを確認して……」

もしかして私の主張は、五十嵐さんにとっては子供っぽい考えなのかもしれない。自分でもだんだん恥ずかしくなってくる。馬鹿にされるかもと覚悟していたら、五十嵐さんの顔が離れていくかわりに、頭をぽんぽんと軽く叩かれた。小さい子をなだめるように。
 
「また避けられると困るから、今日はしない。いいよ、デート。次の日曜は空いてる?」
「は、はいっ!」
「どこに行きたい?」
「ないです。どこでも、お任せします」
「こういう時は、正直に言ってくれたほうが助かるんだけど」

五十嵐さんはすごい。私のダメなところを、きっともう見抜いてる。全部受け身で相手にまかせるばかりではいけないと指摘されたような気がした。
 
「本当は……夏にしかいけない場所がいいです。海とかプールとか、お祭りとか……花火大会とか」

でも実際に口に出して、やっぱり後悔する。きっとそれは、五十嵐さんが面倒だと感じそうな場所。炎天下や人がたくさんいる場所で、楽しそうにはしゃぐ五十嵐さんなんて、想像できない。無難に映画に誘えばよかった。