そうしている間に、店員さんに「いらっしゃいませ」を言われてしまい、後に引けなくなってしまう。
もう開き直るしかない。

「どれでも好きなのを選んでおいで」
「五十嵐さんが選んでください」
「わかった。いいよ。大人っぽいのがいいんだよな?」

店員さんが持ってきてくれたいくつかの浴衣の中から、彼は真剣に選び始める。
私の前にあててみたり、帯との相性まで考えて、時間をかけて候補を絞ってくれた。
最終的に五十嵐さんが選んだのは、紺地に大きな花が描かれた浴衣だ。

店員さんによると、ムクゲの花を模った柄らしい。紫がかった水色に染められている花びらと、絞りが施されている花びらがランダムにある。

「気に入った?」
「はい」

浴衣が決まったところで、店員さんが着付け部屋へと案内してくれる。裏と表が違う色の帯で、珍しい結び方で着付けてもらえ、私はすっかり舞い上がった。

着付けや髪のセットが終わり、下駄を履いて五十嵐さんの姿をさがすと、店の奥で誰かと喋っていた。
 
「お前が突然来るというから、驚いたよ」
「悪いな。でもこういうのは信用あるとこが一番だろう」
「まあ、新に浴衣の生地の良し悪しわからないだろうからね」

一緒にいたのは、五十嵐さんと同じ年くらいの、着物姿の男性。友人だろうか。

「それにしても、若いな……犯罪じゃないよね?」
「あっ? 成人済みだよ。同じ二十代だ」
「同じって、それは図々しいな。あと二か月もしないで、三十だろう」
「自分だって」

すごく仲がよさそうに話し込んでいて、しかも話題が私のことのようで、声を掛けるタイミングを失ってしまった。

「ああ、出来上がったみたいだ。こんにちは、その浴衣よく似合ってるね」

着物の男性に、うっとりしてしまうほどの美しい微笑みを向けられ、私は赤面した。その人は五十嵐さんにくらべて、かなり線が細く、中性的な顔立ちをしている。