隣は何をする人ぞ～カクテルと、恋の手ほどきを～

その時、私は見つけなくて良いものを見つけてしまった。五十嵐さんが手にぶら下げていたのは、あの女の人が持っていた誕生日プレゼント……だけじゃない。別のものも、もうひとつ。どちらもアクセサリーや小物類が入りそうな小さな紙袋だった。

「明日も朝からだろう？　はやく……いや、ごめん」

私が紙袋を発見してしまったと気付いた五十嵐さんが、急に謝ってきた。

「勝手に置いてかれたから、仕方なく」

五十嵐さんの言うように、「新君へ」というメッセージカードが見える位置に張り付けてある。
　馴れ馴れしく呼ばないで。今ここにいない人に言いたい言葉を必死に飲み込んだ。

「……あ、大丈夫です……気にしないでください。お客さんのご厚意は、断りにくいですよね」

もし私が彼の立場でもたぶん受け取るしかない状況。しかも、一度きっぱり断ったやりとりを私はちゃんと見ていた。だから五十嵐さんは私に謝る必要なんかない。

「じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

キスをしないのも、抱きついてすぐに身体を離されてしまったのも、五十嵐さんが時間と場所を考えているからだ。
でも、そんなことを忘れるくらい、私のことを求めてはくれないだろうか。

やばい、私はどんどん欲深くなっている。



それからしばらくの間、私の心はなかなか晴れなかった。
五十嵐さんは相変わらず、毎日連絡をくれる。いつもとおなじようにやりとりしているのに、何かが違う気がしていた。「おやすみ」という文字に心があるわけじゃない。先週の「おやすみ」も、今週の「おやすみ」も同じ無機質の四文字だ。なのに、どうしてこうも違って見えるのだろう？


「で、誕生日プレゼント買ったの？」